本ページは一般的な情報提供であり、個別事案への助言ではありません。実行前に専門家へご相談ください。本文の統計は各調査の公表時点の数値で、最終確認日は2026年9月12日です。

直接の答え

「後継者がいない=廃業」ではありません。後継者が決まっていない会社は2025年で50.1%と、いまも半数あります。一方で、後継者候補として「非同族」を挙げる会社は41.0%と4年連続で最多になり、公的窓口(事業承継・引継ぎ支援センター)での第三者承継の成約も令和7年度2,265件で過去最多でした。社内にも親族にも候補がいない前提で選べる道は「廃業」「親族承継」「従業員承継」「第三者M&A」の4つ。従業員・取引先・受け取る額・時間の4観点で比べます。

「継いでくれる人がいない」という言葉は、長いあいだ「会社の終わり」と結びつけて語られてきました。けれど、ここ数年の統計はそれとは違う姿を示しています。後継者が決まっていない会社の割合は7年続けて下がり、後継者候補として親族以外を考えている会社は4割を超えました。

この記事では、まず4つの道を同じ土俵に並べ、そのうえで判断の順番を整理します。古い数字がそのまま流通しやすい分野なので、使った数字の出所・調査年・確認日は記事の末尾に一覧でまとめました。

いま起きていること — 数字で3つだけ

2025年の後継者不在率は50.1%。前年から2.0ポイント下がり、7年続けて前の年を下回りました。規模別では大企業24.9%、中小企業51.2%、小規模企業57.3%で、3つの区分いずれも2023年調査から下がっています(中小企業基本法の定義による区分)。

後継者候補として誰を考えているかを見ると、いちばん多いのは「非同族」で41.0%。前年を1.7ポイント上回り、4年連続のトップで、初めて40%を超えました。子どもが29.7%、親族が24.6%、配偶者が4.7%です。

ただし、「不在率が下がった」は「後継者を決めている会社の割合が上がった」という意味であって、半数はまだ決まっていません。帝国データバンクは、そもそも事業承継を望まない層が不在率を押し上げている面もあり、不在率は当面50%前後で推移するとみています。「第三者に引き継ぐことは珍しくなくなった」とは言えても、「放っておいても決まる」わけではありません。

事業を次に渡す4つの道

ここから本題です。4つの道は、「従業員の雇用」「取引先との関係」「オーナーが受け取る額」「必要な時間」で性格が大きく異なります。優劣の順番があるわけではなく、何を最優先にするかで向き不向きが変わります。

※一般的な傾向を整理したものです。個別の会社ごとに結果は大きく異なります。金額は税負担を考慮していません(譲渡・贈与・相続それぞれで課税関係が異なります)。個別の税務判断は税理士に、法的判断は弁護士にご相談ください。
選択肢 従業員の雇用 取引先との関係 オーナーが受け取る額の考え方 進め方の時間感覚
廃業 雇用は終了(解雇予告が必要) 取引は終了。供給責任への配慮が要る 資産の処分価値から負債・清算費用を引いた残り 在庫・設備の処分と清算手続の分
親族承継 継続しやすい 維持しやすい 贈与・相続・譲渡など手法により異なる 後継者の育成を含むため長い
従業員承継
(MBO / EBO)
=経営陣や社員が株式を買い取って引き継ぐ方法
継続しやすい 維持しやすい 後継者の資金調達力に左右される 資金調達の設計を含むため長い
第三者M&A 雇用維持を交渉の議題にできる 相手の信用力で条件が変わることも 事業価値で評価し、有利子負債と税を引いた後が手取り 準備から成約まで段階を踏む

うちの会社でも、引き継ぎ手はいるのか

「そもそも、うちのような会社に引き継ぎ手がいるのか」——ここがいちばん気になるところだと思います。中小企業庁の2026年版中小企業白書は、経営者が60代以上で事業承継の意向が未定の中小企業について、資産超過かつ黒字の企業が約5割を占める一方、その他は赤字または債務超過であり、M&Aの実現可能性にはばらつきがあるとしています。どの会社にも引き継ぎ手がいる、とは言えません。一方で、事業として利益を生んでいる会社は、廃業したときの処分価値とは別の評価がつく余地があります。その違いを次に説明します。

廃業は「処分価値」、M&Aは「事業価値」

廃業=資産を一つずつ処分した価値

廃業では、在庫・機械・車両・不動産などの資産を個別に売却・処分します。このとき、多くの資産は帳簿価額どおりには売れず、処分価値(換金価値)まで下がりがちです。使い込んだ設備や特殊な在庫はとくにその傾向が強く、加えて原状回復費・在庫の廃棄費用といった支出も生じます。長年利益を出してきた会社でも、清算後に手元へ残る金額は想像より小さくなることがあります。

従業員との雇用関係の終了についても、費用と手続が生じます。労働基準法20条は解雇予告または解雇予告手当を定めており、予告日数が30日に足りない場合は不足日数分の平均賃金の支払いが要ります。ただし、予告の手続を踏めば解雇が当然に有効になるわけではなく、人員整理として有効かどうかは別の論点です。金額の見積りと手続の要否は社会保険労務士・弁護士にご確認ください(本稿は一般的な制度の説明であり、個別事案の法的判断を示すものではありません)。

M&A=将来の稼ぐ力を含めた事業価値

一方M&Aでは、会社が継続的に生み出す利益、すなわちのれん(=これから稼ぐ力の分だけ上乗せされる価値)を含めた「事業価値」で評価されます。同じ資産を持つ会社でも、事業として回っていれば、資産の処分価値を上回る評価がつく余地があります。「利益は出ているが後継者がいない」会社ほど、廃業とM&Aで到達点が変わりやすいのはこのためです。

ただし、事業価値がそのままオーナーの手取りになるわけではありません。事業価値から有利子負債を差し引いたものが株式の価値で、そこからさらに譲渡にかかる税金を引いた額が実際の手取りです。税額の計算は会社を売ったら手取りはいくらかのコラムで整理しています。

なお、「廃業する会社の6〜7割は黒字」という話を見かけますが、最新のデータはそうなっていません。休廃業・解散した企業のうち直前期が黒字だった割合は、帝国データバンクの調査で49.1%、東京商工リサーチの調査で52.8%です(いずれも2025年)。調査によって母数や定義が違うので、数字を見るときは、どの調査のいつの値かを添えて読んでください。

留意ここで述べているのは価値の「考え方(構造)」であり、具体的な金額を保証するものではありません。実際の評価は業種・収益力・資産内容・買い手側の事情によって大きく変動します。債務超過・特殊技能への依存が強い・後継者の負担が過大といったケースでは、廃業がむしろ合理的な選択になることもあり、どの道が適しているかは会社ごとに異なります。なお、ここで示した価値の考え方が唯一のものではありません。他の専門家のセカンドオピニオンをお求めいただけます(事業承継・引継ぎ支援センターでは相談を無料で受けられます)。

親族承継・従業員承継という「内部で継ぐ」道

第三者に渡すのではなく、内部で継ぐ道もあります。事業をよく知る人が引き継ぐため、企業文化や取引関係の連続性を保ちやすいのが利点です。統計を見ると、この道はむしろ広がっています。

実際に社長が代わった会社で、新しい社長がどういう経緯で就任したかを見ると、2024年実績では同族承継35.7%と内部昇格35.0%の差が0.7ポイントまで縮まり、2025年の速報値では内部昇格36.1%が同族承継32.3%を上回りました。ただしこれは速報値です。帝国データバンク自身も「上回る兆しがある」「このペースで推移した場合、2025年実績でも上回る可能性がある」という書き方をしており、2026年に公表される実績値で変わり得ます。

出所:株式会社帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日公表)p.5 図「新任社長 就任経緯別 推移」/最終確認 2026年9月12日。「M&Aほか」は同社の分類名で、買収・出向・分社化の合計です(第三者への譲渡だけを指す数字ではありません)。母集団・速報値の扱いは記事末尾の「この記事で使った数字について」に記載しています。
就任の経緯 2024年(実績) 2025年(速報値)
内部昇格
(役員・社員)
35.0% 36.1%
同族承継 35.7% 32.3%
M&Aほか 19.2% 20.6%
外部招聘 7.0% 7.6%
創業者 3.0% 3.4%

言葉を分けておきます。ここでの「内部昇格」は社内の役員・社員への承継であって、第三者への譲渡ではありません。第三者M&Aは「M&Aほか」の区分に含まれますが、この区分には出向・分社化も合算されています。「親族以外への承継」と「M&A」は別のことなので、混ぜて読まないようにしてください。

内部で継ぐ道に共通の壁は資金と保証です。とくに従業員承継(MBO/EBO)では、後継者個人が株式取得資金を用意できるか、そして金融機関の経営者保証を引き受けられるかが現実的な論点になります。ここは金融機関や専門家を交えたスキーム設計(持株会社の活用、段階的な譲渡など)で乗り越えられるケースもあります。

逆にいえば、継がせないほうがよい場合もあるということです。子や従業員に経営者保証を引き受けてもらうとは、その人の個人資産を会社の債務の裏づけに差し出してもらう、ということです。承継を頼む前に、何を引き受けてもらうことになるのかを説明できる状態にしておくと、話は誠実に進みます。

なお、第三者に譲渡する場合も経営者保証が自動的に外れるわけではありません。譲渡に伴って金融機関と保証の取扱いを協議することになり、その協議では「経営者保証に関するガイドライン」が参照されることがあります。解除の時期と条件は交渉と手続の論点になるため、早い段階で取引金融機関に確認しておくと見通しが立ちます。

どう選ぶか — 優先順位から逆算する

「正解」は会社ごとに違います。判断のとっかかりとして、次の観点を書き出してみてください。

これらを整理したうえで、財務の実態(利益の質・簿外債務・名義株や役員貸付金の有無など)を棚卸しすると、現実的な方向性が見えてきます。棚卸しの手順は売却の1年前にやる準備のコラムにまとめました。準備に使える時間があるほど、選べる道は広がります。

最初の相談先 — まず費用のかからない窓口から

相談先には、公的な窓口、M&A仲介会社、FA、顧問税理士、金融機関があり、それぞれ立場が違います。M&A仲介は売り手と買い手の双方の間に立つ立場、FAは売り手または買い手の一方だけにつく立場です。当事務所(株式会社bento)は売り手だけにつくFAであり、同一の案件で売り手と買い手の双方から報酬をいただくことはありません。以下は、その立場から書いた一般的な整理です。

国は各都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを設置しています(全国47都道府県48か所)。令和7年度(2025年度)の新規相談者数は24,000者を超え、第三者承継(M&A)の成約件数は2,265件で過去最多となりました。前年度の令和6年度も2,132件で、2年続けて最多を更新しています。これは全国のM&Aの総数ではなく、公的窓口での年度ごとの成約実績です。同センターは、進行中のM&Aについてのセカンドオピニオンも受け付けています。

留意M&Aが一本調子で増えているわけではありません。2024年実績の「M&Aほか」は19.2%で前年を0.2ポイント下回り、前年割れは2020年以来4年ぶりでした。同調査は、背景として「買い手企業とのトラブル」(給与遅配・税金未納・経営者保証をめぐるもの)の表面化を挙げ、第三者への事業譲渡に対する警戒感が広がった可能性を指摘しています(同社の分析であり、当事務所の評価ではありません)。相手方の見極め方についても、事業承継・引継ぎ支援センターで相談を無料で受けられます。あわせて、仲介契約の条項と手数料の見方はM&A仲介の手数料相場のコラムで整理しました。

頼む相手を選ぶときの目安についても、動きがあります。中小企業庁は2025年8月5日に「中小M&A市場改革プラン」を公表し、①M&A支援機関登録制度のデータベースを改修し、業務の内容や成約実績を比較できる形で参照できるようにすること、②仲介・FAの手数料のあり方は検討を深めること、を整理しています。①②ともまだ実施前の方向性ですが、「業務の中身と手数料を比べられる形で聞く」ことは、いま相談する側が自分でできる備えです。

社員のこと

どの道を選んでも最後まで気がかりとして残るのは社員のことだ、という声をよく聞きます。第三者への譲渡では、雇用の維持や処遇を交渉の議題にすることができます(合意に至るかどうかは相手方と条件次第で、結果をお約束できるものではありません)。

いま自分でできるのは、伝える順序を先に決めておくことです。誰に・いつ・どの順番で伝えるかを決めておくと、社内の動揺は小さく収まりやすくなります。検討している事実を社外に漏らさない扱いをどう作るかは、秘密の守り方に整理しました。労務の金額の見積りや是正の要否については、社会保険労務士・弁護士にご相談ください。

この記事で使った数字について