仲介契約・FA契約には、専任条項・テール条項・直接交渉の制限といった条項が置かれることがあります。中小企業庁は、契約の前に確認する事項として、①M&A支援機関登録制度の登録機関から選定すること、②手数料の説明(報酬率のほか、最低手数料、報酬を算定する基準額、発生タイミング)、③支援の内容と質の説明、④仲介・FA契約書の専任条項、直接交渉制限等の内容――を挙げています。疑問がある場合は、事業承継・引継ぎ支援センターや士業等専門家への相談(セカンド・オピニオン)も有効、と同じ資料に書かれています。
会社を売る話は、契約書に署名した時点で進み方が決まります。どの相手に、どの範囲で、いつまで任せるのか。報酬はいつ、何を基準に発生するのか。ここで書くのは私たちの意見ではなく、国が公表している資料に書いてあることです。出典は記事の末尾にまとめました。
国が挙げている、契約前の確認項目
中小企業庁の財務課とM&A支援機関登録制度事務局は、M&Aを検討する中小企業に向けて「M&A支援機関の選定・契約時に確認すべき事項があります」という1枚の注意喚起を公表しています。挙げられているのは次の4点です。
| 何について | 資料に書かれていること |
|---|---|
| 相手の選び方 | 「M&A支援機関登録制度」の登録機関から選定する。登録機関は「中小M&Aガイドライン」の遵守を宣言しており、登録状況は同制度のデータベースで確認できる。ただし登録機関であっても支援の質は異なるため、具体的な説明を踏まえて決める |
| 手数料 | 手数料体系を確認する。報酬率のほか、最低手数料、報酬を算定する基準額(譲渡額、総資産額等)、発生タイミングを確認することも重要 |
| 支援の内容・質 | プロセスごとに提供される支援内容、担当者の保有資格・経験年数・成約実績、支援機関の組織体制。そして仲介・FA契約書の専任条項、直接交渉制限等の内容 |
| 疑問が残るとき | 事業承継・引継ぎ支援センターや士業等専門家への相談(セカンド・オピニオン)も有効。場合によっては、他の支援機関への依頼や手数料の交渉といった対応も検討する |
3つの条項が縛るもの
同じ資料の裏面は、仲介契約・FA契約には「専任条項」「テール条項」「直接交渉の制限」等の条項が設けられる可能性があるとしたうえで、各々の条項の内容を把握するとともに、留意点を確認するよう促しています。条項ごとの詳しい説明は、中小M&Aガイドラインの該当箇所に案内されています。
- 専任条項 ― 契約の期間中、ほかの支援機関に重ねて依頼できるかどうかを定める条項です。
- テール条項 ― 契約が終わった後の一定の期間に成立したM&Aについても、報酬の対象にする条項です。
- 直接交渉の制限 ― 売り手が買い手と直接やり取りすることを制限する条項です。
いずれも契約書ごとに範囲も期間も違います。期間はどれだけか、対象になる相手は紹介を受けた相手に限るのか、途中で解約したときはどうなるのか。読むべきは、条項の文言そのものです。契約条項の解釈と交渉は弁護士と行います。
実際に何が起きているか(国が公表した事例)
2026年9月1日、中小企業庁財務課とM&A支援機関登録制度事務局は、不適切な広告・営業行為で過去に注意を受けた登録M&A支援機関1社について、再び中小M&Aガイドラインの趣旨に反する行為が確認されたとして、改めて注意を発出した旨を公表しました。このときは社名を公表せず所在地(都道府県名)のみが公表され、同様の事案が再度確認された場合には、社名公表や登録の取消しを含めた対応を検討すると述べられています。
同じ資料には、中小企業から寄せられている相談として、次の4つの例が挙げられています。
- 不誠実な対応 ― サービスの履行が不十分であったり、契約で定められた条件や約束を遵守しないなどの対応を受けた。
- 手数料の説明不足 ― 成功報酬は売却代金の5%と聞いていたが、最低報酬金額が適用され、想定よりも高い手数料を払うことになった。
- 譲渡金額の根拠の説明がなかった ― 株式の譲渡金額等の評価手法や前提条件等について、事前の説明がなかった。
- デュー・ディリジェンスが不十分 ― 仲介者が自らDDを実施していたこと等でDDが不十分だった。また、弁護士や会計士等の専門家の意見を求めることができることについて、知らされなかった。
2025年3月14日の公表資料では、不適切な譲り受け側とのM&Aを支援した登録M&A支援機関1社に対して注意を発出し、適切な対策が図られない場合は翌年度以降の登録継続を認めない旨を通知したこと、対策が図られるまでの間は事業承継・引継ぎ支援センターとして当該支援機関とは連携を実施しないことが公表されています。登録は、宣言して終わりのものではありません。
相談したこと自体で、不利益を受けないようになっている
「秘密保持の条項があるから、ほかに相談できない」と考える方がいます。制度としては、次のようになっています。M&A支援機関登録制度には情報提供受付窓口が置かれ、匿名での情報提供も受け付けられています。そして登録M&A支援機関は、同窓口に相談等をしたことのみをもって秘密保持義務違反として不利益な取扱いを行わないことを、登録時に誓約しています。窓口は紛争解決や助言の場ではなく、受け付けた情報は支援機関へのヒアリング等に使われ、内容に応じて注意・対策の指示、場合によっては社名公表や登録取消しにつながります。
この記事で分からないこと
ここに書いたのは、公表資料に書かれている事実です。個々の契約書の条項が、あなたにとってどういう意味を持つかは、契約書の文言を読まなければ分かりません。期間・範囲・解約の扱いは契約ごとに違い、条項の解釈と交渉は弁護士の仕事です。税額の判断は税理士と行います。各資料の内容は公表時点のもので、最終確認日は2026年9月18日です。
私たちは売り手専属で、買い手からは報酬を受け取りません。上の資料が挙げている「士業等専門家への相談(セカンド・オピニオン)」は、料金のページに掲げている仕事のひとつです。契約書を前にして迷っている段階でも、値段の目安を先に自分で確かめてから相談する形でも構いません。
出典
- 中小企業庁 財務課/M&A支援機関登録制度事務局「M&A支援機関の選定・契約時に確認すべき事項」(「M&Aに係るトラブルの発生を踏まえた対応について」令和7年3月14日 に同梱)/2026年9月18日確認
- 同「不適切な営業行為に係るトラブルの発生を踏まえた対応について」令和8年9月1日/2026年9月18日確認
- 同「M&Aに係るトラブルの発生を踏まえた対応について」令和7年3月14日/2026年9月18日確認